初陣

3日、部内マッチ。67-7と上級生を圧倒した1年生チーム、ルーキー戦士がグラウンドを縦横無尽に
駆け回る中で『16人目』の1年生部員もまた80分間ピッチを走り回ります。

「初めて80分間(笛を)吹くという事で、やる前はすごく体力的に心配だったのですけど、一応
走ることは何とかできました。そこは良かったかなと思うのですけど、まだついていくのに精一杯で
あまりブレイクダウン、オフサイドを見る余裕がなくて、判定とか笛の音だったり、課題もまだまだ
たくさん残りました。」

と振り返るのは池田韻学生レフリー、長い早大ラグビー部の歴史にあって初めての女子レフリーとして
この春、入部します。高校までと異なる80分間の試合、更には男子のスピード感ある試合、加えて
この日が自身のレフリー人生のデビュー戦とあって、緊張した…と光る汗を拭います。

「練習でアタック&ディフェンスを任せて頂く時でも、その度に緊張していて…。部内マッチが
決まってからはずっとドキドキしていましたし、(今日は)めちゃめちゃ緊張しました。」

ハーフタイムで少し落ち着いたという言葉通り、後半は堂々とペナライズ、高らかな笛の音が上井草の
青空に吸い込まれます。

小学校2年からラグビーを始めた池田韻レフリー、玄海ジュニアラグビークラブから福岡高校と日本を
代表するフィニッシャー福岡堅樹選手(筑波大→パナソニック)と同じ経歴を辿り、男子に混じって
楕円球を追いかける日々を送ります。

「どうしても体の強さとかは男子に負けてしまうのですけど…。自分は本当に運動神経良くないの
ですけど、タックルだけは運動神経悪くても頑張れるから、そこを頑張っていました。福岡高校は
元々前に出るディフェンスなので前に出て…男子でもスピードが出る前にタックルに入ってしまえば、
そんなに差はないです。」

高校2年の冬までSH、肩を怪我してパスが遠くまで届かなくなり、大学進学後プレーを続けるか悩んで
いた高校3年の春、恩師の一言で転機が訪れます。

「顧問の先生がレフリーをされていて(プレーが難しいなら)『レフリーを考えてみたら』と。
北九州ワールドセブンズ(HSBCワールドラグビー女子セブンズシリーズ北九州大会)にレフリーの
補助員として参加させていただいた時にこういう道もあるのだなと思いましたし、高校のラスト
1年間は本気でプレーをして、大学生になったらレフリーを目指そうと思いました。」

幼い頃からワセダラグビーに憧れていたものの、ワセダが女子レフリーを受け入れてくれるのか…
その不安を吹き飛ばしてくれたのも、やはり恩師の存在でした。

「菅平の夏合宿で顧問の先生がワセダの方と会った時に『女子でもレフリーで入部させてもらえる
のですか?』と聞いてくださって…その時に『いいですよ』というお返事を頂いて、そこで
頑張りたいなと思いました。」

プレーを高校3年の12月まで続けながら並行して受験勉強、一般受験で見事合格を果たします。
上井草で始まった大学生活は池田韻レフリーにとって刺激的な日々、目を輝かせながら話します。

「高校の時、自分たちはキツい練習をしてきたつもりだったのですけど全然レベルが違って…。
これが日本一を目指すチームなんだなと凄く実感しています。ずっと小さい時から憧れてきた
ワセダというチームの練習を近くで見ることが出来て、本当に嬉しいですし、(自分が)プレー
していた分、技術面のことも面白いなと思います。」

その一方で、不安な思いも同居します。

「日本一を目指すチーム、本当にレベルが高いところで、女子として初めてレフリーとして入れ
させてもらったという事に『大丈夫かな…。邪魔になっちゃうかな…。』と。今もそうなんですけど、
邪魔になってしまったら申し訳ないなと思いながらやっています。」

だからこそ勉強は人一倍。1学年上の小針悠太レフリー、古庄史和コーチ、東京都レフリー
委員会の指導員について、レフリーとしてのスキルアップを図るラグビー漬けの日々が続きます。

「正直、今ラグビーがなくなったら何したらいいかわからないです(笑)。」

最後に今後の課題を聞くと、堰を切ったように言葉が次々と。

「どうしても走力は男子の中でやるには足らないので、そこをちゃんとつけていきたいなと
思います。あと、やっぱり笛だったり、ジェスチャーだったり…堂々さが男子に比べると、小柄
なので足りないと思うので、もっと堂々とした立ち回りをしていきたいです。言い出したらキリが
ないのですけど、コース取りだったり、判定だったり…まだまだ勉強することばかりで上を
目指して頑張っていきます。」

小さな体に秘めた闘争心と向上心、元気な1年生は男子プレーヤーだけではありません。
【鳥越裕貴】



部内マッチで初めて笛を吹く池田韻学生レフリー。デビュー戦を終えて反省。
「(レフリーを)始めたばかりで選手側からもあまり信頼感とかないと思うので、出来るだけ
堂々と笛の音とかジェスチャーとかしようと思ったのですけど、しきれなかったかなと
思います…。」


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