努力

1月20日、都内で行われた4年生部員父兄主催の卒業生慰労会。事務連絡にマイクを取り、二次会の
調整に…と走っていたのが大藤伊織主務。

「4年間はあっという間だったのですけど、もっと出来たなという思いもあって…。(東海大戦に)負けて
2、3日経って、練習行かない生活があって自分たちは本当に引退したのだなぁ…と。それは改めて
実感しました。」

小中学生時代はワセダクラブでプレー。高校生活を経て、慣れ親しんだ上井草のグラウンドへ。
PR/HOとして入部、プレーヤーとしてアカクロを目指して汗を流す日々を送っていたものの2年生の
終わりに転機が訪れます。

「自分がこれからと思う時に『プレーヤー辞めて、マネジメントやってくれ』とスタッフから言われて…。
自分としても凄いショックで、聞こえが悪く言えば”戦力外”じゃないですか。いや違うでしょ…僕は
もっと出来ますよ…と。」

すんなりと受け入れられる打診ではなかったものの同期と話すうち、スタッフに選ばれた事も光栄な事、
誰でも出来るポジションではないと前を向きます。

「日本一になるために自分が(スタッフとして)必要だと言ってもらえるなら、そこで頑張ろう…そこに
相応しい人間になろうと。腹を括ってやるしかないと思いました。」

スタッフに転向した3年時に後藤禎和前監督から山下大悟監督へとバトンが受け渡されると、日々の
過ごし方が大きく変わります。

「日本一になるという根本の価値観は変わらないのですけど、そこに向かうプロセスの価値観は全て
変わりました。(オフを除く)週6日の全てを構築し直すというのは自分もチームも困惑した部分がある
かなと。」

首脳陣と現役学生プレーヤーを繋ぐ立場、どの組織でも変革期に起こる不安、不満を吸収する為、
その振る舞いを強く意識します。

「(学生が)僕にしか言えない事もあると思ったので、全てを否定はしないで受け入れよう…と。全員の
意見を否定しないと心がけていて、『監督がこう言っているからこうだよ』ではなくて、『お前の言っている
事もわかるけど…』と一旦肯定した上で、もっとこうできるんじゃないの…と。否定からは入らないように
していましたね。ただ一方で、チームとしてどうなのかということはブレさせないように…。自分がブレて
しまったら、チームの中枢に居る人間がブレている段階で、チームは終わってしまうので。」

最上級生になると同期の活躍が大藤主務の心の支えとなります。特にWTBのポジションを勝ち取った
野口祐樹選手は、3年時マネジメントへの転向を打診された際に親身に相談に乗ってくれた存在、
その言葉が胸に響きます。

「彼(野口選手)が4年になって『お前の為に頑張るよ』と冗談交じりに言ってくれて…。冗談交じりで
あっても嬉しかったですし、彼がアカクロを着て活躍してくれていると僕もすごい頑張れました。」

更に下級生時代、ともに下のチームで汗を流した仲間の名前をあげます。

「あと埜田、中野厳。(野口選手に加えて)その3人がシニア、Aチームに上がった時というのは、
自分らの代にこういう(下のチームから上がって来た)ヤツがいて誇りに思いました。同じ選手だったら、
ひがむところを素直に喜べた。(プレーヤーと)同じ場所にいないので努力もわかるし、主務の
特権かなと思います。」

チームの勝利の瞬間も一つ一つが喜びとなり、その中でもベストゲームと話すのが早慶戦。

「(前主務の)市瀬さんから4年の早慶、早明は特別だと言われていたのですけど、自分が勝って
初めてわかりました…これだけ嬉しいのだと。早慶戦の重みを正直感じていて、(試合後)その重み
から開放されて、僕らのやってきたことが間違ってなかったと証明できた事でホッとしました。
主務をやっていて涙を流したのはあの瞬間だけ。それだけ特別でしたね。」

主務として裏方業務をこなす中で、色々な人達と関わり、「こんなに多くのファンがいる
学生スポーツはそんなにない」…改めて恵まれた環境にいる事を認識する一方で求められる
レベルの高さも強く感じます。

「選手もスタッフも”当たり前”のレベルがワセダは高い。その当たり前…スタンダードを自分の人生に
おけるスタンダードとしたいですし、努力とはワセダでやってきた4年間の努力が最低基準となりたい。
(ワセダで)結果が出ていない僕の努力は、(現時点では)努力ではない。結果が出るまでが努力だと
思っています。」

更に言葉に力がこもります。

「僕らの目標は社会で活躍できる人間になる、社会のリーダーになる事。日本一を取れなかった代と
僕らは永遠言われますけど、それを挽回するチャンスとして第二のステージが待っています。そこで
僕らがどれだけ頑張れるか、ワセダのラグビー部の価値を高められるか、僕らの第二のステージで
証明する…それができる人生を送りたいと思います。」

プレーヤーとしてスタッフとして全力で駆け抜けた4年間、重ねた努力のその先もまた努力し続ける事を
誓います。【鳥越裕貴】



(写真)チームを裏方で支えた大藤伊織主務。自身が果たせなかった夢を託す後輩達へ。
「自分たちが負けて何も後輩達には残せなかった。でも、この代で野口や(中野)厳が活躍してアカクロを
掴んで、活躍して…というのを見て、今の3年生以下がどう思ってくれたのか、いい方向でああいう風に
なりたいと思えてもらえたら…勿論それは野口や厳だけではなく、加藤や横山がやってきた姿、後ろ姿を
見てこういう人になりたいと思えてもらえたなら、勝てなかったですけど、それが僕らがワセダでやってきた
意味なのかなと思います。」

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