体現

16日、大学選手権・東海大戦。試合の入りに長けていると分析していた相手にいきなりノーホイッスルトライを与え、
「一番ワーストの形」(WTB中野厳選手)となった序盤、その悪い流れを断ち切ったのは4年生WTB中野厳選手でした。

秩父宮の空気を一変させるビッグタックルを見せると、前半17分には鮮やかなラインブレイクからLO加藤広人主将へ
ラストパス、ワセダのファーストトライを演出します。

「(ボールを)もらってちょうどギャップが見えたので、思い切って走ったという感じです。加藤ならあそこ
(タッチライン際)を上がって来てくれると信じてました。(同じシーンがあった)慶応戦で一回放れなかった…声も
聞こえましたし、(横を)見たらいたので放りました。」

指揮官も試合後記者会見の冒頭、4年生に労いの言葉を贈る中で中野厳選手の活躍にも触れます。

「(今年は)夏に底を見てそこから4年生が本当に踏ん張ってくれた。今日も前半流れを変えてくれたのは…
食い止めてくれたのは中野厳のプレーでした。」(山下大悟監督)

3年生まで公式戦出場なし、ジュニアチームが主戦場だった中野厳選手、ラストイヤーを迎えるにあたりラグビー部の
公式ホームページに”早稲田の4年生を体現します”と宣言します。

「4年生になる最初の時に書くので、その時は(何が体現なのか)分からなかったのですけど、自分に言い聞かせる
感じで…。後もなかったですし、自分にプレッシャーをかける…そういうつもりで書きました。」

CチームからBチーム、そしてAチームへ。楕円球に真っ直ぐに向き合い、積み重ねた努力の末のアカクロジャージ、
早慶戦で初出場を果たした試合後、山下大悟監督は「去年まで積み上げてきたものが4年生になって花開いた。
さすが4年生という非常に集中力を持った良いプレーをしていた。」と評価します。付属校出身の叩き上げ…ワセダの
ラグビーファンが応援したくなる4年生らしい姿を見せながらも、中野厳選手が思う”体現”とは異なるものでした。

「(試合には)その時、監督が選んだ人が使われる訳で、別にそこで下からやってきたというのはあまり関係ない。
どのような形でも選ばれたなら勝たなきゃいけない、勝てなかったのがただただ悔しいです。」

言葉を続けます。

「結局、最後の結果として点差を離されて東海さんに負けて…。こうして終わってしまって、(この代は)変わらなかった
じゃないかと。実際そう思わせてしまうような結果だと思いますし、こういう結果で終わってしまったことがただただ
申し訳ないし、情けない。結果として4年生らしさを体現することはできなかったです。全部結果論だと思うので。」

チームが絶対的な目標とする大学日本一を果たせなかった事が全てと言い切ります。それでも、ともに戦った
LO加藤広人主将が「非常にキツいことも、痛い事もできるし、要所要所で喋ってくれる。信頼出来るし、頼りに出来る
選手」と話すように周囲の信頼を集めるプレーヤーに最終学年で成長。この日、試合序盤には相手WTBの独走を
許しながらも執念のアンクルタップ、トライを防ぎます。

「良いディフェンスというよりは、抜かれて外だったので、あんまり褒められたものではないです。でも、自分が出ている
意味というのは、ああいうところでの集中力だったり、相手の流れを変える事を求められていると思うので、集中は
切らさないようにしていました。」

170センチの小さな体を補う意識と集中力の高さ、積み上げた努力で掴んだアカクロは後輩達にも大きな勇気を
与えたはずです。

「去年のこの時期とか、下のチームはあまりグラウンド使えなくて練習していなくて…。そういうところからでも、まだ
こうやって行けるという意味では後輩にはあきらめないでほしい。口で言うのは簡単なんですけどラグビーは辛いので、
どうしてもちょっと、そこで逃げてしまう事がいっぱいあると思うのですけど、自分と戦って本当の意味でアカクロを
目指して、今日の東海の外国人だったり、帝京のAチームと戦う為に何が必要かを考えて全員がやればもっと
チームは強くなると思います。」

執念のアンクルタップ、魂のビッグヒット、強気のラインブレイク…部員席で見ていた後輩達が何かを感じ、来季への
活力に繋がったのなら、きっとそれは4年生らしさが体現できていたという事なのだと思います。【鳥越裕貴】



ラストイヤーで輝きを放ったWTB中野厳選手(写真は早明戦、校歌斉唱に並ぶ)。同期の存在について
「シーズンが深まるに連れて信頼できる仲間がいっぱいいて…。これで終わってしまうのがただ残念です。加藤、
ツル(鶴川)、黒木とかずっと引っ張ってきて、横山もケガしてしまって(Aチームに)4年生が少なくて大変だったと
思うので、だからこそもっと結果で応えたかったです。それが今、率直な感想ですね。」

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