感謝

15日、桑野組追い出し試合。試合後の予餞会を終えてブレザー姿の桑野詠真主将はワセダ
での4年間を振り返ります。

「4年間終わったのですけど、最後の同志社戦に負けて本当に悔しかったな…という思いで
いっぱいで…。早慶、早明に勝って対抗戦2位で抜けられて、あそこの同志社戦に勝って
いればチームがもう一皮も二皮も剥けれたのになと、すごく後悔の思いでいっぱいです。」

福岡・筑紫高校でラグビーを始めた桑野詠真主将がワセダを意識し始めたのは高校2年生の
時。同校出身でワセダに進んでいた堺裕介選手(2011年度山下組主務)が教育実習で母校へ
里帰り。

「ワセダは日本一を目指す集団だし、筑紫でやってきたことも4年間生きるから…熱い4年間
を過ごせるから…と言ってもらって、ワセダに行きたいなと思いました。」

ワセダに入ってからは入部式で新人総代を務めて以降、2、3年生時と続けて委員に就任、
常にこの学年の中心的存在。なるべくして最終学年で第99代主将に。

「桑野が先頭に立ち続けてくれたので、そういう姿を見て自分も頑張らなければいけないな
という思いは常に持っていました。信頼できる、弱みを見せずに、常に悪いところは口に
出して、チームの事を考えてその度に先頭に立ち続けてくれる、コイツについていきたい
と皆が思うようなヤツだったと思います。」(市瀬奨一郎主務)

間近で支えてきた主務から見た主将の姿…それでも本人に話を聞くと

「あんまり口で言うのも得意じゃないので…。しっかりグラウンドでまず体を張って、
その上で言葉を発して行こうとしてました。僕があんまり口で言えない中で、(本田)
宗詩、山口、広瀬とか4年生が色々相談にのってくれて本当に支えられながらの1年間
だったなと思います。」

周囲への目配りや感謝の気持ちを忘れない好青年。3年生シーズンの最終戦は準決勝進出の
可能性が途絶えていた東海大戦。難しい位置付けの一戦に岡田組4年生がワセダで学んだ
全てを出し切り、試合後どこか清々しさを感じさせた一方で、桑野詠真選手は競技場の
片隅で一人、大粒の涙をこぼしていました。

「(岡田)一平さんがキャプテンとして重圧を感じながら、僕らを引っ張ってくれたのに…
勝たせてあげられなくて申し訳ないです…。」

大敗を喫した11月の帝京大戦後に一層厳しくなったAチーム4年生FW陣のタックル個人練習
では自身の体のキツさよりも、言葉にしたのは練習台を務めてくれたメンバーへの感謝の
気持ち。

「堤とか松井、井上、(三浦)駿平とか僕達のタックルを受けてくれて…。あいつらも
(体が)キツい中で、練習終わりに、ずーっと受けてくれていた。その時は特に言葉は
ないですけど、本当にいいエールをもらっていたと思います。」

同志社戦に敗れた後も、まず口をついたのはサポートしてくれた部員への思い。

「4年生だけではなく下のチーム、学生スタッフ、学生コーチの4年生が自分たちの役割を
全うしてくれて、本当にいいサポートをしてくれたのに…。それをグラウンドで返せ
なくて、ものすごく申し訳ないという気持ちでいっぱいです。」

自身が体を張って確保したボールを後輩たちに供給して走らせる献身的なプレースタイル
同様に、常に自分よりも誰かの為に戦い続けたワセダでの4年間。注目を集めるワセダ
の主将という重責を背負ってのラストイヤーは

「毎試合毎試合苦しかったですし、結果を出さなければいけない中で、勝たなきゃいけない
という思い…毎日が不安でした。」

そんな時でも、浮かんでくるのは歴代の先輩4年生が最後まであきらめずに戦い抜いた姿、
自分もそうあろうと心に誓います。持ち合わせていた熱いハートに、更に火を点けたのは
今シーズンから就任した山下大悟監督。

「本当に試合で勝ちたければ、その過程、練習含め、個人練習含め、そういうところを
大事にする、ラグビーの戦術だけでなく、人間としての戦い方を、ワセダのラガーマン
としてのあり方を監督にはすごくこの一年で教わったという感じです。戦術もあります
けど、そこじゃなくて最初から自分が仕掛ける気持ちだとか、戦う部分、よくラグビーは
ケンカだと監督は言いますけど、そういう闘志の部分をすごく教わりました。」

幼少期から持ち合わせていた周囲を思いやる優しい気持ち、筑紫−ワセダで培われた熱い
ハート、山下大悟監督から徹底的に叩き込まれた戦う姿勢。人間としてより一層の深みを
増した桑野詠真主将は1年生の頃の写真と今を見比べて「(顔つき)全然違いますね(笑)」
と笑います。

追い出し試合、予餞会と続いた部としての公式行事を終えた後に行われた父兄主催の謝恩会。
壇上に立った桑野詠真主将は、父兄そして同期への感謝の言葉を述べた後、「最後に…」
と数人のファンの方に視線を移して付け加えます。

「下級生の頃からずっと応援していただいたのに…」

一瞬言葉が詰まり、振り絞るように言葉を続けます。

「結果で応えられなくて申し訳ないです…。最後まで応援して下さりありがとうございました。」

最後の一言まで、隅々までの配慮を忘れない彼らしい温かな言葉でした。【鳥越裕貴】



一年間先頭に立ちチームを牽引した桑野詠真主将。加藤広人新主将で臨む新シーズンにエール。
「加藤には今年もかなり助けてもらいましたし、本当に頼りになるプレーヤー。いかに他の
4年生が頑張って、後輩が同じ方向を向けるかだと思います。ワセダのラグビーは4年生だと
思うので、4年生がしっかり頑張ってほしいですね。一人一人に与えられる環境はあると思うの
ですけど、その中で自分がどう足掻いて頑張れるか、キツい時に逃げるのではなくて、自分に
とことん向き合って最後まで悩んだ結果が自分にも、チームの為にもなるから、しっかり
キツい状況から逃げずに頑張ってほしいと思います。」

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